ヨモギから採れた青い精油
前回の記事では、8月に開催したヨモギの蒸留会についてご紹介しました。その最後に少し触れたのが、ヨモギから採れることのある「青い精油」です。写真の鮮やかな青色の精油は、2024年6月に私がヨモギを水蒸気蒸留したときに採れたものです。

青色成分「カマズレン」とは?
植物のヨモギを見ても、もちろん青い色をしているわけではありません。それなのに、蒸留すると、なぜこのような美しい青色の精油が現れるのでしょうか。
この青色に関係しているのが、「カマズレン(chamazulene)」という成分です。
今回は、ヨモギの蒸留から少し話を広げて、この不思議な青色についてご紹介したいと思います。
植物の中に、青いカマズレンがそのままあるわけではありません
実は、植物の中に最初から青色のカマズレンがそのまま存在しているわけではありません。
カモマイル・ジャーマンでは、「マトリシン(matricin)」という成分がカマズレンの前駆体として知られています。
「前駆体」とは、ある成分がつくられる前の段階にある物質のことです。
ヨモギを含むキク科の植物にも、加熱によってカマズレンなどのアズレン類に変化する前駆体を含むものがあります。こうした前駆体は「プロアズレン」と呼ばれます。
水蒸気蒸留では植物が加熱されるため、こうした前駆体に化学的な変化が起こり、カマズレンが生成することがあります。
つまり、蒸留後に目にする青色は、植物の中にあった青い色がそのまま出てきたものではなく、蒸留という過程を経ることで現れる色なのです。
緑色のヨモギを蒸留器に入れ、蒸留を続けていると、留出液の表面に青い精油が見えてくることがあります。
実際に蒸留していると、とても印象的な瞬間です。
美しい青色「アズレンブルー」とカマズレン
カマズレンは、アズレンと呼ばれる特徴的な化学構造をもつ成分のひとつです。
「アズレン」という名前は、スペイン語で「青」を意味する「azul(アスール)」に由来しています。
その鮮やかな青色は「アズレンブルー」とも呼ばれます。
アズレン系の化合物は、美しい色だけでなく、その薬理作用についても研究されてきました。
例えば、皮膚の炎症などに用いられる医薬品「アズノール軟膏」には、グアイアズレン(ジメチルイソプロピルアズレン)という成分が使用されています。
また、「アズノールうがい液」には、アズレンスルホン酸ナトリウムという別のアズレン系化合物が使われています。
カマズレンも、これらと同じアズレン骨格をもつ化合物です。
カマズレンについても抗炎症作用などが研究されていますが、医薬品に使用されている成分とは異なる物質であり、その作用や有効性を同じように考えることはできません。
青い精油の色の背景には、このような化学的な特徴や、成分の働きについての研究もあるのです。
青い精油といえば、カモマイル・ジャーマン
アロマテラピーを勉強したことがある方なら、青い精油と聞いて「カモマイル・ジャーマン(ジャーマンカモミール)」を思い浮かべるかもしれません。
カモマイル・ジャーマンも、ヨモギと同じキク科の植物です。
白い舌状花と黄色い筒状花からなる可愛らしい花を咲かせますが、そこから得られる精油は濃い青色から青緑色をしています。
こちらも、植物に含まれる前駆体が蒸留の過程で変化し、カマズレンが生成するためです。
カモマイル・ジャーマンは、青色の精油が得られる植物としてよく知られています。
また、同じキク科のヤロー(セイヨウノコギリソウ)にもカマズレンを含む精油があり、タナセタム(ブルータンジー)の精油でもカマズレンが確認されています。
植物によって香りも成分組成も異なりますが、蒸留によって現れる青色には共通する化学的な特徴があるのです。
ところが、今年のヨモギは鮮やかな青色になりませんでした


私はこれまでにもヨモギを蒸留し、青色の精油を確認したことがあります。写真の鮮やかな青色の精油を採取したのは、2024年6月でした。
ところが、2026年8月上旬に開催したヨモギの蒸留会では、わずかな青みは確認できたものの、2024年のような鮮やかな青色にはなりませんでした。
どうしてこんなに違うのでしょう。
改めて二つの蒸留を振り返ってみると、植物の状態や使用した部分に違いがありました。
6月と8月では、ヨモギの姿も違います
2024年に蒸留したのは6月でした。
この時期のヨモギは生育に勢いがあり、全体的に葉も大きく、元気な状態でした。蒸留には芽先や葉先の部分も一緒に使っています。
一方、今年の蒸留会は8月上旬でした。
ヨモギの先端には、すでに花がつき始めていました。先端部分の葉は小さくなっていたため、今回は株の根元に近いところから、できるだけ大きな葉を選んで蒸留しました。
同じ「ヨモギの葉」を使っているつもりでも、こうして比べてみると、ずいぶん違います。
2024年は、生育に勢いのある6月のヨモギで、芽先や葉先も使用しました。一方、2026年は花がつき始めた8月のヨモギで、根元に近い大きな葉を中心に使用しています。
植物がつくる成分は、季節や生育段階、生育環境、そして植物体のどの部分を使うかによっても変化します。
今回、精油の青色に違いがあった理由も、こうした植物の状態や使用した部位の違いが関係していたのかもしれません。
もちろん、今回の結果だけで「これが原因」と決めることはできません。
それでも、二つの蒸留を比べてみると、とても興味深い違いです。
蒸留器や蒸留条件によっても変わります
もうひとつ、カマズレンを考えるうえで忘れてはいけないのが、蒸留そのものの条件です。
前駆体からカマズレンへの変化には、蒸留時の加熱条件や蒸留時間、蒸留器の構造なども関係します。
温度や圧力などの条件が異なれば、前駆体の化学的な変化や、得られる精油の成分組成にも違いが生じる可能性があります。
そのため、植物に前駆体が含まれていても、蒸留の条件によってはカマズレンが十分に生成しないことも考えられます。
ただし、2024年と2026年のヨモギについては、私は同じ蒸留器を使用しています。
そして、この蒸留器で2024年には実際に鮮やかな青色の精油を採ることができました。
同じ蒸留器を使っていても、今年は同じような青色にはならなかったのです。
もちろん、蒸留器が同じでも、植物の量や詰め方、蒸留時間などの条件がすべて一致していたとは限りません。
また、精油の青色の見え方は、精油の量や液層の厚さによっても変わります。青色が淡く見えたからといって、カマズレンの含有率が低かったと断定することもできません。
それでも、今回の違いを考えると、採取した季節やヨモギの生育段階、使用した部位の違いが気になるところです。
植物を実際に蒸留してみるからこそ
精油について勉強していると、成分分析表を見る機会がたくさんあります。
「この精油には、この成分が何%含まれている」
それは精油を理解するために、とても大切な情報です。
でも、実際の植物を見て、触れて、香りを確かめ、それを蒸留してみると、成分分析表の数字だけでは見えてこなかったことに気づくことがあります。
2024年6月には、鮮やかな青色になったヨモギの精油。
2026年8月には、同じ蒸留器を使っても、ほんのりとした青色でした。
どうして違ったのでしょう。
来年は、また6月頃のヨモギを蒸留してみようと思います。
今度は採取する時期や植物の状態、使用する部位、蒸留条件なども記録しながら、今回の結果と比べてみたいと思っています。
植物は、いつも同じではありません。
だからこそ、実際の植物を観察し、自分で蒸留して確かめてみることが面白いのだと思います。
Aroma Officinalis-88では、季節の植物を実際に観察し、香りを確かめながら水蒸気蒸留を行う「季節の植物の蒸留会」を開催しています。
開催予定については、季節の植物の蒸留会 のページでご案内しています。
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