ヨモギの水蒸気蒸留会
8月6日から9日までの4日間、アロマスクールで「ヨモギの水蒸気蒸留会」を開催しました。
今回の主役は、道端や野原、庭や畑でも見かけるヨモギです。草餅として味わい、お灸の艾(もぐさ)に使い、生薬としても用いられてきた、暮らしに深く関わる植物です。そのヨモギを観察し、蒸留しながら香りを確かめ、参加者の皆さんと改めて見つめ直しました。

ヨモギに惹かれて集まった皆さん
4日間で26名の方にご参加いただきました。ヨモギに惹かれたきっかけは、人それぞれでした。
アロマテラピーや精油に関心のある方に加え、ヨモギ蒸し、鍼灸、薬膳、よもぎ餅など、入口はさまざまです。専業農家の方や、ご実家の畑で作物を育てている方もいらっしゃいました。
畑や庭に生い茂るヨモギは、あまりに身近で、ふだん意識することが少ない植物かもしれません。けれど、摘んで蒸留器に入れ、香りを取り出してみると、いつもと違う植物に見えてきます。ヨモギを真ん中に置くと、香り、食、薬草、お灸、農業へと世界が開いていきました。


身近な薬草・ヨモギをもう少し詳しく…。
ひと口に「ヨモギ」といっても、仲間はたくさんあります。日本には30種以上のヨモギ属(Artemisia)の植物が知られています。私たちがよく目にするヨモギのほか、オオヨモギ(エゾヨモギ、ヤマヨモギ)、ニシヨモギ(オキナワヨモギ)、カワラヨモギ、オトコヨモギ、イヌヨモギなどがあります。
今回使ったのは、野原や道端でよく見かける「ヨモギ」、別名「カズザキヨモギ」と考えています。植物の分類は少し複雑で、資料によって学名の扱いも異なりますが、日本薬学会や日本薬局方ではヨモギを Artemisia princeps としています。
ヨモギはキク科ヨモギ属の多年草です。地下に根茎を横に伸ばし、葉には羽のような深い切れ込みがあります。
見つけたら、ぜひ葉を一枚裏返してみてください。表は緑色なのに、裏は白っぽく見えます。灰白色の細かな毛が密生しているためで、この毛を「毛茸(もうじょう)」といいます。実は、この白い毛がお灸につながります。葉を乾燥させて細かく砕き、ふるいにかけて葉脈などを除き、毛茸を集めて精製したものが、お灸に使う「もぐさ(艾)」です。葉の大きなオオヨモギも、もぐさの原料になります。
さらに、日本の医薬品の公的な規格基準書である『日本薬局方』には、ヨモギまたはオオヨモギの葉や枝先が、生薬「艾葉(ガイヨウ)」として収載されています。春には若葉が草餅に、葉裏の白い毛はもぐさに、薬用には艾葉に。何気なく見ているヨモギには、いくつもの顔があります。
「もぐさ」と聞くと、私は滋賀県の伊吹山を思い出します。以前、中山道・柏原宿で、「伊吹もぐさ」の老舗、亀屋さんの古い建物を見たことがあります。伊吹山麓と柏原宿は、古くからもぐさで知られてきた土地です。今回、ヨモギの葉裏の白い毛を見ながら、目の前の植物と、伊吹山、もぐさ、お灸が結びついていくように感じました。
ヨモギの仲間を南へたどると、ニシヨモギ(オキナワヨモギ)があります。沖縄では「フーチバー」と呼ばれ、ジューシーやヤギ汁など、日々の料理に使われる身近な食材です。本州ではヨモギといえば草餅を思い浮かべる方が多いと思います。同じ仲間でも、地域が変わると、人との関わり方や食文化まで変わる。植物を知る面白さは、こんなところにもあります。
生のヨモギ、蒸留したヨモギ
蒸留会では、まず植物そのものを見て、触れて、香りを確かめます。それから、たくさんのヨモギを蒸留器に入れ、水蒸気蒸留を始めます。
植物が温まり、蒸留器から留出液が一滴、また一滴と落ち始めると、教室にもヨモギの香りが広がっていきます。
・摘んだヨモギそのものの香り。
・蒸留中に立ちのぼる香り。
・蒸留で得られた芳香蒸留水の香り。
同じヨモギなのに、それぞれ印象が少しずつ違います。蒸留器を囲みながら、香りが取り出されていく様子と、その変化を皆さんと一緒に確かめました。
お灸、薬膳茶、そしてヨモギを味わう
4日間では、参加された方の専門や得意分野からも、ヨモギの世界が広がりました。
ある日は、鍼灸師で、アロマ・アドバイザーコースを受講中の生徒さんに、お灸のお話をしていただきました。目の前の蒸留器のヨモギと、お灸に使うもぐさ。同じ植物を、別の角度から見ることができました。
別の日には、薬膳茶に詳しいアドバイザーコースの卒業生さんが、ヨモギを取り入れた薬膳茶を振る舞ってくださいました。私も、時間をかけて乾燥させたヨモギ茶を用意しました。さらに、蒸留を終えたヨモギでジェノベーゼを作り、ペンネやパンと一緒に味わっていただきました。
見る、触れる、香る、蒸留する、味わう。参加された皆さんの知識や経験も加わって、一つの植物をいろいろな方向から楽しむ時間になりました。


蒸留会のあとも、自宅でヨモギを
蒸留で得られたヨモギの芳香蒸留水は、30mlのスプレーボトルに入れ、お一人2本ずつお持ち帰りいただきました。蒸留を終えたヨモギの残渣と、蒸留器に残った液も少しずつお分けし、ご自宅で入浴の際などに楽しんでいただきました。
教室いっぱいに広がったヨモギの香りに癒やされたという声もありました。蒸留会のあとも、持ち帰った芳香蒸留水やヨモギで、しばらくヨモギを楽しんでくださったようです。
一本のヨモギから、植物、薬草、お灸、食、農業、そして香りへ。参加された皆さんの経験や興味が重なり合い、一つの植物が思いがけない広がりを見せた4日間でした。


ヨモギの精油に見えた、かすかな青
最後に、ヨモギの精油のお話です。
キク科のヨモギは、ジャーマンカモミールと同じように、水蒸気蒸留の過程で青い成分「カマズレン」が生じることがあります。これまで私が蒸留したヨモギでは、鮮やかな青色の精油が採れました。ところが今年の蒸留会では、期待していたような鮮やかな青は得られませんでした。
最後の写真にもうっすらと青みは見えますが、これまでの青とは違います。植物の成分は、季節や採取した場所、生育環境によっても変わります。
次の記事では、この青色成分カマズレンについて、今回の蒸留を手がかりに、もう少し詳しくご紹介します。

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