月桂樹(ローレル)の香りと精油のお話
11月の蒸留会で、わが家の庭で30年間 育ってきた月桂樹(ローレル)を蒸留します。
料理では「ローリエ」としておなじみの月桂樹。けれども、生きた葉をちぎって香りを確かめたり、その葉から得られる精油の成分までじっくり眺めたりする機会は、意外と少ないのではないでしょうか。
・生の葉と乾燥した葉、香りの印象は同じ?
・ローレル精油には、どんな芳香成分が含まれているの?
・同じ「ローレル精油」なら、成分分析表の数値も同じ?
今回は一本の月桂樹を入り口に、植物としての姿、葉の香り、水蒸気蒸留、精油の芳香成分まで、少しマニアックに紹介します。

1.1994年に植えた木
わが家の月桂樹は、1994年に知人から苗木をいただいて庭に植えたものです。
月桂樹はクスノキ科ゲッケイジュ属の常緑樹で、学名は Laurus nobilis L. 地中海沿岸が原産です。英語では Bay laurel、精油の世界では「ローレル」、乾燥させた葉は料理のスパイスとして「ローリエ」。呼び名はいろいろですが、どれも同じ植物のことです。常緑樹で、一年中青々とした葉をつけ、庭木としてすっかり日常の景色になっていましたが、蒸留をきっかけにあらためて眺めてみると、気になることがいくつも出てきました。
1-1.毎年見ていても、咲かない月桂樹の花
月桂樹は「雌雄異株」といって、雄花をつける雄株と、雌花をつける雌株が別々の木です。雌株は受粉すると実をつけ、熟すと黒紫色になります。
日本に月桂樹がやって来たのは、明治38年(1905年)頃といわれています。そして日本では、雌株より雄株が多く育てられてきたそうです。最初に入ってきた木に雄株が多く、それが挿し木で増やされていったためだと考えられています。挿し木は、親木の枝から新しい株をつくる方法。雄株の枝からは、雄株しかできません。
わが家の月桂樹も、1994年にいただいた苗木から育てたもの。実を見たことがないので、もしかしたら雄株なのかもしれません。
ところが、ひとつ不思議なことがあります。雄株なら、春には雄花が咲くはずなのです。毎年気にして見ているのに、私はこの木の花を一度も見たことがありません。
調べてみると、月桂樹の花が咲かない主な原因として、次の2つが挙げられていました。
・日照不足……光を十分に浴びないと、花芽がつくられにくくなる
・強い剪定……枝先や全体を強く切り詰めると、花芽ごと切ってしまう
わが家の月桂樹は、北東の、日当たりのあまりよくない場所に立っています。そのうえ30年のあいだに、すっかり大きくなりました。常緑の木は一年じゅう葉を茂らせ、放っておくと、どんどん背が伸びてしまいます。毎年、樹高を抑えるために、かなり思い切って枝を切っています。
どうやら、2つの原因が、見事に重なっているようです。
大きくなりすぎた木を、毎年切る。切られた木は、また葉を出して伸びる。そのくり返しの中で、この木には花を咲かせる余裕がなかったのかもしれません。花も実も見せてくれないのは、雄株だからなのか、それとも環境のせいなのか。
今のところ、確かなことは分かりません。30年そばにいても、まだ分からないことがある。それが植物の面白いところです。

2.ちぎると香る?
月桂樹の葉は、そのまま嗅ぐのと、指でちぎったり揉んだりして嗅ぐのとでは、香り方がまるで違います。
クスノキ科の植物の葉には、精油をためておく「油細胞(油胞)」があります。ちぎったり折ったりして組織が壊れると、中にあった芳香成分が外へ放たれ、私たちはそれを香りとして感じるのです。
月桂樹の葉が手に入ったら、ぜひ、そのままの葉と、ちぎった葉を嗅ぎ比べてみてください。
2-1.庭から採ったばかりの生葉
採ったばかりの生葉は、そのままでもほのかに香りますが、ちぎると香りがさらによくわかります。
すっきりとした清涼感に、青々とした植物らしさ、そしてどこかスパイシーな気配。料理で使う乾燥ローリエとは、ひと味違う印象です。
「月桂樹の香り」を知っているつもりでも、生きた葉をちぎって嗅いでみると、少し印象が変わるかもしれません。
【写真④:生の枝葉、または葉を手に持っている写真】

2-2.乾燥させた葉は、どうでしょう
教室には、昨年剪定した月桂樹の枝葉を、そのまま乾燥させて置いてあります。1年ほどたって、葉はすっかり褐色になりました。
近づけて嗅いでも、ほとんど香りません。ところが、一枚取って指でちぎってみると、今でもはっきりと月桂樹の香りが立ち上がるのです。
しかも、私には生葉と少し違って感じられます。生葉よりも甘さがあり、スパイシーさも際立つように思えます。
なぜ違うのか。乾燥の間に、どの成分がどれだけ残り、どう変わったのか。鼻だけで理由を言い切ることはできません。だからこそ、確かめてみたくなります。生葉と乾燥葉をそれぞれ蒸留したら、得られる香りにも違いが出るのでしょうか。それは、これからのお楽しみです。
【写真⑤:昨年の乾燥した枝葉】

3.葉から生まれる、ローレル精油
月桂樹の葉を水蒸気蒸留して得られるのが、ローレル精油です。
香りを嗅ぐと、まず、すっと鼻に抜ける清涼感。けれどもそれだけではなく、スパイシーさや甘さ、少し温かみのある気配も重なっています。この複雑な香りは、どんな芳香成分からできているのでしょうか。
3-1.ローレル精油の芳香成分
代表的な成分は「1,8-シネオール」です。NARD JAPAN『ケモタイプ精油小事典』には、ローレル精油の主な芳香成分の平均的な含有量として、次の数値が示されています。
・1,8-シネオール 35~55%
・α-テルピニルアセテート 5~15%
・サビネン 5~10%
・α-ピネン 4~10%
このほか、β-ピネン、リナロール、テルピネン-4-オールなど、たくさんの芳香分子が含まれています。ローレル精油は、一つの成分ではなく、多くの芳香分子の組み合わせでできています。

3-2.シネオールが多くても、同じ香りにはならない
1,8-シネオールと聞くと、ユーカリのすっとした香りを思い浮かべる方も多いと思います。ユーカリのほか、ラヴィンツァラ、カユプテ、ローズマリー・シネオールなどにも、1,8-シネオールを多く含む精油があります。
では、どれも同じような香りかというと、嗅ぎ比べてみると、それぞれに違います。共通する清涼感はあるのに、全体の印象は別ものです。どんな芳香分子が、どれくらいの割合で一緒に含まれているか。その組み合わせで、一つの精油の香りが決まるからです。
「1,8-シネオールを約50%含む」という数字だけを見るのと、実際に一本の精油を嗅ぐのとでは、見えてくるものが違います。成分表と香り、その両方を行き来すると、精油はぐっと立体的に見えてきます。
【写真:ローレル、ユーカリ、カユプテ、ローズマリー・シネオール、ラヴィンツァラの精油ボトル】
〈キャプション〉1,8-シネオールを多く含む精油を嗅ぎ比べると、植物ごとの香りの違いが見えてきます。
4.同じ「ローレル精油」なのに、数字が違う
ここで、もう一つ気になることがありました。「ローレル精油には1,8-シネオールが35~55%」とはいうものの、どのローレル精油も、本当に同じ割合なのでしょうか。手元にある2ロットの成分分析表から、主な芳香成分を抜き出して比べてみました。どちらも同じ学名 Laurus nobilis のローレル精油です。
| 芳香成分 | Lot:A | Lot:B |
|---|---|---|
| 1,8-シネオール | 55.76% | 49.69% |
| α-テルピニルアセテート | 9.35% | 11.36% |
| サビネン | 7.56% | 7.89% |
| α-ピネン | 5.32% | 5.91% |
| β-ピネン | 3.66% | 4.44% |
| リナロール | 3.48% | 0.97% |
1,8-シネオールは、どちらも精油のおよそ半分を占めていますが、同じ数値ではありません。サビネンやα-ピネンは近い値ですが、α-テルピニルアセテートには差があり、リナロールは3.48%と0.97%と、はっきり違います。同じ名前の精油でも、中身を数字で見ると、一つひとつ違うのです。
4-1.2つの成分分析表を比較
手元にあるローレル精油2ロットの成分分析表から、主な芳香成分をいくつか抜き出して比較しました。
1,8-シネオールは、どちらも精油のおよそ半分を占めていますが、同じ数値ではありません。サビネンやα-ピネンは近い値ですが、α-テルピニルアセテートには差があり、リナロールは3.48%と0.97%と、はっきり違います。同じ名前の精油でも、中身を数字で見ると、一つひとつ違うのです。
4-2.精油は「いつも同じ」ではない
これはローレルに限った話ではありません。精油は、レシピ通りに芳香分子を配合してつくるものではなく、植物が自らつくり出した成分を、水蒸気蒸留などで取り出した天然物です。育った土地や気候、収穫の時期、植物の状態、蒸留の条件。さまざまな要因で、組成は動きます。
だから、精油小事典の成分含有量も「必ずこの数値」という固定値ではなく、一定の幅をもって示されているのです。
成分分析表の面白さは、「この精油には○○が入っている」と確かめることだけではありません。ロットが変われば数字が動く。そこから、精油が植物から得られる天然物であることを、あらためて実感できます。
こうして分析表を眺めていると、気になってくることがあります。
・1994年から庭で育っている、この月桂樹を蒸留したら、どんな香りの精油になるのだろう?
・市販のローレル精油と同じような香り? それとも、少し違う?
植物に触れ、香りを嗅いでいると、成分分析表の数字が、目の前の木とつながって見えてきます。
5.庭の月桂樹を、蒸留してみたら
一番気になっているのは、やはり目の前にあるこの木です。
生葉をちぎった瞬間の、すっきり青々とした香り。
市販のローレル精油の、清涼感の中に甘さとスパイシーさが重なる香り。
1年乾燥させた葉をちぎったときの、生葉とは少し違う、甘くスパイシーな香り。
これらは、どうつながっているのでしょう。
水蒸気蒸留は、植物に水蒸気を通して揮発性の芳香成分を取り出し、冷やして液体として集める方法です。そこで得られるのが、芳香蒸留水と、植物や条件によってはごく少量の精油です。
蒸留の最中にも、香りは刻々と変わります。蒸留器に入れる前の葉の香り、熱が入って立ち上がってくる香り、そして流れ出したばかりの芳香蒸留水の香り。精油瓶に入ったローレル精油だけを嗅いでいては見えない、「植物から香りを取り出していく過程」そのものを味わえるのが、水蒸気蒸留のいちばんの面白さだと感じています。
【写真:昨年の月桂樹蒸留時の写真(蒸留器と葉が一緒に写っているもの)】
〈キャプション〉月桂樹の葉を水蒸気蒸留しているところ。葉から放たれた芳香成分が水蒸気とともに移動し、冷やされて芳香蒸留水と精油になります。
6.見て、触れて、ちぎって、嗅いで、蒸留する
11月の蒸留会では、わが家で30年以上育ってきた月桂樹の生葉を使って、実際に水蒸気蒸留を行います。
当日は、生葉と、1年乾燥させた葉の香りの違いを確かめていただきます。そして、ローレル、ユーカリ、カユプテ、ローズマリー・シネオール、ラヴィンツァラなど、1,8-シネオールを多く含む精油も嗅ぎ比べます。「どこか共通している」と感じるか、「思ったより全然違う」と感じるか。ぜひご自身の鼻で確かめてみてください。
植物を知ること。成分分析表から精油を読み解くこと。そして、実際の植物に触れて、自分の鼻で香りを確かめること。どれも、香りの植物を知るための大切な方法です。
数字と香りを行き来しながら、月桂樹という一本の木をゆっくり味わう時間にしたいと思っています。
【写真⑦:ローレル、ユーカリ、カユプテ、ローズマリー・シネオール、ラヴィンツァラの精油ボトルを並べた写真】

6.庭の月桂樹を蒸留したら?
ここまで、市販されているローレル精油の成分分析表や、1,8-シネオールを多く含むほかの精油について見てきました。
けれども、私が一番気になっているのは、やはり目の前にあるこの月桂樹です。
1994年に庭に植えてから、30年以上。
毎年たくさんの葉を茂らせてきた月桂樹を水蒸気蒸留すると、どんな香りが立ち上がるのでしょう。
生葉をちぎった瞬間に感じる、すっきりとした青々しい香り。
市販されているローレル精油の、清涼感の中に甘さやスパイシーさを感じる香り。
そして、約1年間乾燥させた葉をちぎったときに感じた、生葉とは少し違う甘くスパイシーな香り。
これらは、どのようにつながっているのでしょう。
水蒸気蒸留では、植物に水蒸気を通すことで揮発性の芳香成分を取り出し、冷却して液体として集めます。
そこで得られるのが、芳香蒸留水と、植物や蒸留条件によってはごく少量の精油です。
【写真⑧:昨年の月桂樹蒸留時の写真。蒸留器と月桂樹の葉が一緒に分かるものが理想】

〈キャプション〉
月桂樹の葉を水蒸気蒸留している様子。葉から放たれた揮発性の芳香成分が水蒸気とともに移動し、冷却されて芳香蒸留水と精油として集まります。
蒸留している最中にも、香りは刻々と変化していきます。
蒸留器に入れる前の葉の香り。
加熱されて立ち上がってくる香り。
そして、蒸留器から流れ出してきたばかりの芳香蒸留水の香り。
精油瓶の中に入った「ローレル精油」だけを嗅いでいると見えにくい、植物から香りを取り出していく過程そのものを観察できるのが、水蒸気蒸留の面白さだと感じています。
6-1.次は「生葉」と「乾燥葉」を蒸留して比較
今回の11月の蒸留会では、庭から採取した生葉を使います。
一方、教室には昨年剪定し、約1年間乾燥させた月桂樹の枝葉があります。
先ほどご紹介したように、この乾燥葉は、そのままではほとんど香らないのに、ちぎると今でもはっきりと芳香を感じます。しかも、私には生葉より甘く、スパイシーな香りに感じられます。
それなら、この乾燥葉を水蒸気蒸留したらどうなるのでしょう。生葉と乾燥葉では、得られる芳香蒸留水や精油の香りにも違いが現れるのでしょうか。
これは、次に確かめてみたいテーマです。
成分分析表から精油を見ることも面白い。けれども、実際の植物に触れ、香りを嗅ぎ、蒸留して、その変化を自分の鼻で確かめてみる。そこには、数字だけでは分からない植物の面白さがあります。
7.月桂樹を、実際に見て、触れて、香る
ここまで、庭の月桂樹から、生葉と乾燥葉の香り、ローレル精油の芳香成分、そして実際の成分分析表まで見てきました。
植物について知ること。
成分分析表から精油を読み解くこと。そして、
実際の植物に触れ、自分の鼻で香りを確かめること。
どれも、香りの植物を知るための大切な方法だと思っています。
11月に開催する月桂樹(ローレル)の水蒸気蒸留会では、わが家で30年以上育ってきた月桂樹の生葉を使って、実際に水蒸気蒸留を行います。
生葉と、約1年間乾燥させた葉の香りの違い。
そして、ローレル、ユーカリ、カユプテ、ローズマリー・シネオール、ラヴィンツァラなど、1,8-シネオールを多く含む精油の香りの違いも、実際に嗅ぎ比べていただこうと思っています。
この記事でご紹介した成分分析表の「数字」と、目の前にある植物や精油の「香り」。
その両方を行き来しながら、月桂樹という一つの植物をじっくり味わっていただけたらと思います。
植物を「見る」「触れる」「ちぎる」「嗅ぐ」、そして「蒸留する」。
知識だけではなく、実際の植物と香りから月桂樹を知る時間です。
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